製作家の生涯
こんにちは、HYTSです。
素晴らしいヴァイオリンを目にすると、そのヴァイオリンをもっと知りたくなります。
そして、ヴァイオリンをより深く知りたいと思った時、僕は製作家の生涯を出来るだけ調べます。
製作家が作製した楽器は年代により色々で、材料が良かったり、良いとはいえない材料が使われていたり、楽器の形が違ったり、ニスの色が違ったり.....。
製作家の製作環境は、楽器に強い影響を与えるため、製作家の生涯を知ると、「なぜこういう楽器がつくられたのか?」を知るヒントを得られると思っています。
もし修行期、独立期、黄金期、晩年期で分けたとすると、時期によって、下記のように作品に影響を与えるように思われます。
1. 修行期
製作家が弟子として師匠に教えを請い、ヴァイオリン製作の技術を身につける時期です。
師匠のラベルで製作していたり、師匠の工房で自分のラベルで製作したり。
工房で、師匠が弟子を雇っていると、師匠のラベルでも、弟子が手伝っていることは多いようです。弟子が一部分つくっていたり、全部つくっていたり。
イタリアの有名製作家のラベルが貼ってあっても、弟子か工房の誰かがつくったものとして、エキスパートの鑑定書がつけられているものも沢山あります。
製作家は、師匠のモデルから製作方法を受け継ぎます。
なので、製作された楽器は、形やモデルなど、師匠に似ているものが多い時期です。
2. 独立期
師匠から離れて、自分の工房を構えて、自分のラベルで、楽器製作をする時期です。
師匠の模倣から離れて、独自のスタイルを模索したりする時期です。
ただ駆け出しのため、経済的な問題で、材料の質がいいものをあまり使えなかったりすることもあるようです。
3. 黄金期
製作家として最も充実した時期で、“傑作”が生まれる時期です。
自分の得意なモデルを確立し、手先も冴えた時期なので、音響設計、細工、材料もハイレベルな楽器が製作されます。
楽器の値段も、最も高い価格がつきます。
4. 晩年期
高齢になってきて、手先が衰えてくる時期です。
楽器を製作するスピードが遅くなったり、弟子を雇って手伝ってもらって製作を進めます。
弟子に任せる部分があったり、手先が動かなくなってくると、細工の面で品質にバラツキがでたりする時期のようです。
人の生涯なので、一概に断定することはできないですが、学んだ環境、経済的な状況、年齢などは作品に影響を与える要素になると思います。
楽器が黄金期に製作されたものでなくても、野心に満ちた楽器、誰かに捧げた楽器、執念でつくった楽器など、素晴らしい楽器は沢山あるので、そういう楽器の背景は知りたいですよね。
僕自身は、製作家が楽器をどういう思いでつくったか、想像するのが好きです。
歳を取っても最高の楽器をつくりたかったのか....。
大事な人から依頼を受けたから、全力を尽くしたのか....。
心打たれる楽器に出会って、その楽器を模倣することで学び取りたいと思ったのか.....。
僕は、楽器に込められたエモーションをできるだけ知りたいです。
ヴァイオリンの音、外観にきっと現れているはずですから...。
<写真は、アシュモレアン博物館所蔵の1564年製のアンドレア・アマティ。裏板に天使の絵が描かれている。ヴァロワ朝第12代フランス王シャルル9世に捧げられた。>