HYTSヴァイオリンな日々

ヴァイオリンの魅力と謎について日々思うことを書きたいと思います。

弓の重さ

こんにちは、HYTS です。



ヴァイオリンの右手に持つ、弓の重さについて、書きます。



弓の重さ、重要なんでしょうか?




僕は、演奏者にとっては、弾き心地に関わる大切な問題かと考えています。



ヴァイオリンの弓の一般的な重さは、58g〜62gとされ、新作の弓は、ほぼこの重さで作られています。



弓の重さがある方が、強い音が出しやすいですが、重過ぎると弾きづらい。




フルサイズのヴァイオリンに対して、58g〜62gで弾くと、音量と重さで均衡が取れると、一般的に言われています。




52g〜57gは、軽過ぎる弓として、音が弱い弓という話を聞いたことがあり、僕もそう思っていました...。




しかし、この概念を再考する機会がありました。




1850年あたりに作製された、フレンチ弓を触れた時のことです。



それは、52g〜54gぐらいの弓でした。




軽くて弱い弓のはずが、音が申し分なく綺麗に響く。力を加えなくても、ヴァイオリンに弓を乗せるだけで、弓が勝手に弾いてくれる。



むしろ軽いことで、きめ細やかな音楽に導いてくれるというか。




コンチェルト向きの強い音を求めれば別だと思いますが、ソナタとか小品であれば、音楽を深く楽しめる弓でした。




これは、自分にとっては、新しい発見でした。




色々調べたり、話を聞いてみると、これは、弓が作製された年代に起因することのようです。



1800年1850年は「削り弓」、1850年以降からは「曲げ弓」で作られている、と。




「削り弓」とは、材料であるフェルナンブーコ(ブラジル東海岸に生息する木)を削り出して作製された弓で、フェルナンブーコが沢山必要。





「曲げ弓」とは、フェルナンブーコを曲げて作製する弓で、材料であるフェルナンブーコが「削り弓」程は必要にならない。






密度が高くて最高のフェルナンブーコで「削り弓」を作製すると、綺麗な音が出せる弓が出来るようです。





僕の推測ですが、そんな最高の材料であれば、多少軽い方が、操作性を上げることが出来るのではないかと.....。






しかし、フェルナンブーコは希少なため、一つの弓に沢山の材料を使う「削り弓」製法は、現実的ではないようです。




1850年以降、材料を沢山使用する、「削り弓」は、廃れていったそうです。




現在フェルナンブーコは、貴重な天然資源で、ワシントン条約絶滅危惧種として輸出入を規制されています。



弓に使える、フェルナンブーコの材料も減っていくのでしょうね...。



弓を見る時、重さという杓子定規で測るのでなく、弓の歴史や音楽の目で理解しようとしないと分からないんだなぁ、と反省しました。





<写真は、王立音楽アカデミーミュージアム の弓の歴史に関する展示です。>

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先人の知恵は、凄いし、いい弓に触れると、発見があります。




勿論、オールド弓は高価なので、なかなか買う方も大変ですが.....。




弓の話また書きたい、と思います。


時を超える音

こんにちは、HYTS です。


ある1910年代の録音について、書きます。



1877年トーマス・エジソンが、円柱型アナログレコードを開発し、録音することが出来るようになりました。



そして、音楽家が徐々に演奏を録音するようになりました。




ベルギーのヴァイオリ二ストであるEugène Ysaÿe(ウジェーヌ・イザイ)は、1912年〜1919年に演奏を録音しています。




イザイについて、面白いエピソードがあります。



フランスのヴァイオリニストJacques Thibaud(ジャック・ティボー)著の「ヴァイオリンは語る」では、少年のティボーが、イザイを回想しています。


この回想では....



少年ティボーとイザイは夕食を共にした後、イザイは、少年ティボーに、



「君のヴァイオリン聴かせて」



と言った。



実はこの時、ティボーは、大ヴァイオリニストのイザイであると知らない。



少年ティボーは、



「ウィエニャフスキーのコンチェルトを弾きます。」



という。



イザイは、



「では、僕は君の伴奏をしよう。オーケストラのかわりをするよ。」



といい、ヴァイオリンを取り出す。



ティボーがコンチェルトのソロパートを弾くと、



イザイは、ヴァイオリンは勿論、低弦やシンバルやオーボエや、さらにはティンパニーにいたるオーケストラの全ての奏者の真似をするという奇跡をやってのけた...




とティボーは回想しています。





イザイの録音で、「ウィーン奇想曲」があります。




この録音を聴くと、イザイは、今では考えられないぐらいゆっくりとしたテンポで、演奏しています。



ゆっくりしたテンポで、豊潤に音が響いて、途切れることなく歌が聴こえてきます。



僕は、ノスタルジーの世界に引き込まれてしまいます....。




冷静に考えると、これだけゆっくりしたテンポで豊かに歌い上げることは、超絶的な技術が必要だと思います。




これも、音楽の奇跡ですね....。



幸いにも、Apple Music で、イザイの演奏を聴くことが出来ます。


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100年の時を超えて、音楽の奇跡を届けてくれます。





イザイが愛奏したヴァイオリンは、1740年製のガルネリ・デル・ジェスです。




1998年に、Isaac Stern (アイザック・スターン)から日本音楽財団が譲り受け、現在演奏家に貸与しています。




イザイが愛したヴァイオリンの音は、今でも聴くことが出来るんですね。



楽器の中には小さなラベルが貼られ、赤いインクで、フランス語である一文が遺されているようです。



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「このデル・ジェスは私の生涯を通じて忠実なパートナーだった。イザイ1928」


コンテンポラリー・ヴァイオリン<音>

こんにちは、HYTSです。




新作ヴァイオリンの音について、僕なりに書いてみようと思います。


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明るい音か暗い音か、又は、音量が大きいか小さいかについては、一つ一つの楽器の個性の問題なので、それについては触れずに書こうと思います。





「弾き方を変えたら、音はどう反応するか」という、レスポンスに絞って、書いてみようと思います。




あくまで僕自身が感じたことですし、楽器毎に変わることなので、一概にこうだと断定するものではありません。






僕が新作ヴァイオリンで、いいなぁと思う楽器は、レスポンスが良いものです。





具体的にいうと、弓の圧力の変化や、弓の倒し方を変えた時に、音が変化するという、弾き方の変化に音が素直に答えてくれる楽器が、新作ヴァイオリンでいい楽器だなと思っています。





レスポンスは、製作家が意図していることでしょうし、新作ヴァイオリンは製作家が製作したままの状態なので、楽器特有のレスポンスを体感するには、最高の状態かもしれません。

 



擬人化すると、”素直なお嬢さん”という感じでしょうか。





この点、150年以上前のオールドヴァイオリンを弾くと有名製作家の楽器でも、レスポンスに気難しさを感じたことがあります。




「そういう弾き方では、音出したくないのよね。」



と、拒絶されているような....。




しかし、ある弾き方をすると、すごく綺麗な音が出たりする。




レスポンスが悪いというでわけではなく、気難しいといいますか。ご機嫌が悪くなりやすいといいますか。




擬人化すると、”気難しくて美しいレディー”という感じでしょうか。






これは僕の推測ですが、僕が気難しいと感じたオールドヴァイオリンは、出来たばかりの頃は気難しくなかったんじゃないか、と思っています。





強い気温変化に長年されされたり、板の厚みを削られたり、表面に保護ニスをかけられたり、セットアップを大幅に変更したり、そういう楽器の歴史が、気難しくさせてしまったのかなと。





楽器のいい音を引き出せる技術に長けた人であれば、弾きこなしてしまうのでしょうが....。




その点、新作ヴァイオリンは、生まれたばかりの状態です。




確かに新作ヴァイオリンの音は、弾き込まれていない分、まだまだ味は薄いかもしれません。




しかし、新作ヴァイオリンの強みは、製作家が作製したままのオリジナルコンディションであることだと思います。




新作ヴァイオリンが、健康であることは間違いないです。


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音の変化を勉強する上で、ヴァイオリンが教えてくれることは沢山ある、と思っています。


コンテンポラリー・ヴァイオリン<価格>

こんにちは、HYTS です。


コンテンポラリー・ヴァイオリン(Comtemporary violin)について、書きます。






コンテンポラリー・ヴァイオリンとは、現代のヴァイオリンという意味で、ヴァイオリン製作家が現在も活躍しているヴァイオリンで、基本的に新作ヴァイオリンと同義語かと考えています。



製作家が死んでしまったら、モダン・イタリーの部類に入るかまでの厳密な定義がどうなっているか分かりません。



コンテンポラリー・ヴァイオリンについて、


1 価格

2 音


を、書いてみたいと思います。




1 価格


手造りのヴァイオリンであれば、50万円〜1200万円程の価格幅でしょうか。





コンテンポラリー・ヴァイオリンは面白くて、値段は150万円から非常によい楽器に出会うことができると思っています。




価格が高ければよい、と単純に言えるものでもなく、値段で楽器の優劣はないと思っています。





製作家は、ワールドワイドの時代で、イタリアに限らず、アメリカ、日本含めたアジア、ドイツ、フランスなど、国籍に関係なく素晴らしい楽器があると思います。





ヴァイオリンのモデルも、沢山ありすぎて、楽しく迷うことができますね。





150万円〜300万円

有名製作家の楽器を買うことができる価格と思います。製作家によって価格が変わりますし、楽器店が仕入れる為替の状況によっても変わるようです。




300万円〜600万円

新作ヴァイオリンであれば、かなり高額な価格帯だと思います。製作に手間をかける、年間製作本数も限られた有名製作家の楽器でしょう。450万円を超えるものは、なかなか見かけません。




600万円〜1200万円

市場でほぼみることのない、有名製作家の希少な作品でしょうか。売り出しているものは、とても高価です。





僕が知る限り、下記四人の製作家のヴァイオリンはこの価格帯です。




・Gregg Alf  (グレッグ・アルフ)

製作したヴァイオリンが、巨匠Ruggiero Ricci(ルッジェーロ・リッチ)に愛されました。Ruggiero Ricciが使用したCurtin&Alf作”Ex.Ricci”が、$132,000で落札されています。



・Samuel Zygmuntowicz (サミュエル・ジグムントヴィッチ)

巨匠Isaac Stern が、ガルネリのコピーを依頼しました。そのヴァイオリンは、オークションで、2003年に$130,000で落札されています。



・Giancarlo Guicciardi (ジャンカルロ・グイッチャルディ)

ボローニャのマエストロ、Ansaldo Poggi(アンサルド・ポッジ  1893-1984)の弟子で、Poggiの製作方法を受け継ぐモデナのマエストロ。僕がみた限り、1970年代の楽器は、Poggiの楽器そっくりでした。



・Francesco Bissolotti (フランチェスコ・ビソロッティ)

現代クレモナを代表する製作家の一人です。シモーネ・F・サッコーニと、ストラディヴァリの遺品や数々のオールドヴァイオリンから、クレモナの製作技法を研究した製作家です。




なお、Gio Batta Morassi(ジオバッタ・モラッシー)は、2018年2月に亡くなったため、上記には記載していませんが、やはり楽器はとても高額です。







オールド・ヴァイオリンよりもリーズナブルに購入できるコンテンポラリー・ヴァイオリンは、作家が製作したオリジナルの状態なので、健康状態はとてもいいです。




ただ健康な分、季節変化で音が変わったり、湿度の影響を受けたり、敏感だと感じました。




出来たてのヴァイオリンのニスは、安定していないこともあるようで、湿度が高くて暑い日本の夏は注意が必要です。





思えば、現在はモダン・イタリーのヴァイオリンとして取引されているものも、今から30年程前はコンテンポラリー・ヴァイオリンとして取引されていたんですよね。




製作家の死後に価格が上がるのは、絵画と一緒ですね....。




勿論未来の事は、分かりませんが....。




次は、コンテンポラリー・ヴァイオリンの音について書きます。

ヒル商会の本

こんにちは、HYTSです。


今回は、ヒル商会の書籍について書きます。




「アントニオ・ストラディヴァリ  その生涯と作品(ANTONIO STRADIVARI HIS LIFE AND WORK)」


ウィリアム・ヘンリー・ヒル

アーサー・フレディック・ヒル

ルフレッド・エブスワース・ヒル

野田  彰 訳


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ヒル商会は、イギリスで100年程続いた楽器専門店(1887年〜1994年)です。この本は、創設者ウィリアム・エブスワース・ヒル(1817〜1895)の三人の息子によって1902年に書かれた本です。




2018年10月に六本木で開催された、ストラディヴァリウスの展示会「東京ストラディバリウス・フェスティバル2018」で注文し、購入しました。




ヒル商会は、ストラディバリの若年期から晩年期の傑作のほとんどを手にとって見ることができたので、この本を書くことができた、と後書きにあります。



ヴァイオリンの書籍は、日本語で書かれたものは少なく、英語、イタリア語、フランス語など外国語で書かれたものが多いです。



因みに、ヴァイオリンの書籍は高価で、買う時は、結構大変です....。




実は、僕はこの本を中古の洋書で入手していたのですが、細かい英語を読むの大変だったため、なかなか読み進んでいませんでした。


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今回、この日本語訳を入手でき、訳して頂いた方、出版社に大変感謝しています。




ストラディヴァリの作品の変遷が書かれており、22歳の若い頃の作品から晩年期の93歳までの作品の特徴まで書かれています。




晩年期弟子達の手を借りながらも、体が意のままにならない中、製作した楽器の特徴も記載されています。死ぬまでヴァイオリン製作を全うした製作家の姿勢が、読み取れます。




ストラディヴァリウスの音について、記載でも興味深い一文があります。



「今日、美の感じ方や音についての認識が、昔と同じ程度に涵養されているかは随分疑問であるとさえ思われる。以前より大きな音や、高度な技巧的効果を生み出すために、個々の楽器の個性を犠牲にしてしまう現代のオーケストラ・スコアの作り方の傾向や、コンサート・グランド・ピアノの室内楽での濫用は、音の美しさそのものに対する感じ方を、著しく損なうもののように思われる。」

(本文197、198ページより引用)



ヒル兄弟は、19世紀に既にこの疑問を提起していたんですね。



どうあるべきかの結論は、個人の感性の問題ですが、ヴァイオリンの音の聴き方、弾き方について考えさせられますね.....。




また、材料についての記述では、ヴァイオリンの大事な要素について記載されています。



1 ニス

2 作りと寸法

3 材料の木



本では、1、2、3の順に大事と記載されています。



僕は、素晴らしい木の選択こそ大事なのではと、なんとなく思っていたため、3、2、1の重要に大事と考えていました。



しかし、ニスは楽器全体の振動に影響を与えるでしょうし、楽器の作りと形は音響設計そのものなので、大事な要素だなと考え直しました。



所有している楽器の表面のコンディションも大事にしたいですね。



ストラディヴァリに関する伝説や逸話について記載された書籍も面白いですが、本書は客観的な文章で書かれています。


ヴァイオリンに対する見識を磨くのに、素晴らしい書籍です。




100年前に書かれた書籍ですが、ヒル商会程ストラディヴァリウスに触れた楽器店は、歴史的に珍しかったんでしょう。




実は、ヒル商会は、ガルネリについての本も書いています。こちらは英語のみですが...。


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もしこれも日本語で読める日が来たら、望外の喜びです。


まず英語力磨かないと....ですね......。


ロンドン<オークション>

こんにちは、HYTS です。


今回は、ロンドンのヴァイオリンオークションについてです。


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僕はプロのバイヤーではないですが、参加したこともあるので、知っている限りで書いてみます。



ロンドンには、複数のオークションが、年に数回行われます。私が知っている限りですが、



・Tarisio London 

Brompton’s Auctioneers

・Ingles & Hayday

・Amati Auctions



あたりで、オークションを開いていますね。


ネットオークションも導入されていて、競りの場にいなくても、参加できます。ネットオークションのみのところもあります。




Tarisio London は、3月、6月、10月にオークションが行われていて、品物をPublic Viewing でズラっと2日間程並べます。



Public Viewing は、複数のオークションハウスも同時期にやるので、一回の渡英で複数のオークションの出品物を確認することも可能です。




プロのディーラー、ヴァイオリンコレクター、演奏家、愛好家など色々な人が見に来ます。




個人的に、オークションは、とても真剣な場だと感じます。



プロのディーラーさんにとっては、買付の機会でわざわざ旅費を払ってくるので、大切な仕事場でしょうし、本当に楽器が欲しいと思ってくる演奏家もいると思います。参加する側も真剣にみてこそオークションを楽しめるのではないかと。





プロじゃない人でも、素晴らしい楽器に出会いたいと情熱と、少しの英語力があれば、オークションハウスの方も、丁寧に出品のヴァイオリンについて教えてくれます。





落札方法、手数料、付加価値税ワシントン条約のポリシーなど、詳しくサイトに記載しています。





ヴァイオリンは、セットアップされているものも多くあり、実際に弾けるので、色々な楽器に出会えるチャンスではないでしょうか。





オークションハウスは、出品される楽器をカタログで紹介しています。カタログはとても重要なものです。





そのカタログには、オークションハウスが製作家の真作だとした場合はBY、可能性があるとしか言えない場合はPOSSIBILYなど、記載されています。




また素晴らしい作品はFINE、良い作品はGOOD、珍しい作品はRARE、来歴などで何か重要性がある作品はSIGNIFICANTなど、記載しています。






ただし、ヴァイオリンのコンディション、製作家による真作か、出来不出来などの最終的な判断は、全て参加者の自己責任なので、オールドヴァイオリンなどは、僕を含めてプロでない人間は、相当な覚悟がない限り、手を出せません。





オークションにでるものは、製作家の中で特上品は少なく、中程度のものが多いかなという印象です。




これは、特上品は、オークションよりも相対取引を選択する方が、売手にとって有利と判断される場合もあるためと、聞いたことがあります。





オークションは、美人コンテストのようで、ヴァイオリンが格付されます。自分達の愛情持っていた楽器が、脚の長さ、鼻の高さ、顔立をみられ、値付けがされていきます。こう考えると、無情な感じがしますよね.....。





いずれにせよ、オークションは、ヴァイオリンを本気で購入したい人には、とても興味深いものです。





オークションをみて、個人的な印象ですが、コンディションと作品の出来不出来のレベルによって、同じ製作家の作品でも、もの凄い価格差が付くなと感じました。


コンディションは、やはり値付けされる上では、とても重要な要素になるようです。


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少し話は逸れますが、




格付が無情なオークションみていると、僕はヴァイオリンを改めて大事にしたいと思いました。



金銭的な価値も大事ですが、自分にとっての価値もとても大事だと思います。




ヴァイオリンは、自分が生きている間保有していても、自分が死んだらどうなるか分かりません。



それなりに頑張って購入したものでも、結局その後どんな格付がされるかわかりません。



もしかしたら、鑑定書と一緒に真作だと購入したものでも、偽物だと言われてしまうこともあるでしょう。



勿論、思い掛けない価値で将来評価されることもあるでしょう。




でもその人は、ヴァイオリンとは長い間一緒にいたでしょうし、音に耳を傾けてきたはずです。




分からないからこそ、日々メンテナンスして大事に向き合いたいと思いますし、無理して購入したものであれば、無駄なキズはつけないよう現在のベストコンディションで保ちたいものですね。




将来どんな値付けされようとも、自分のために歌ってくれたヴァイオリンですから。


オックスフォード<アシュモレアン博物館>

んにちは、HYTSです。



オックスフォードのアシュモレアン博物館について、書きます。




行き方ですが、



ロンドンのパディントン駅からオックスフォード駅まで鉄道で一時間です。

オフピーク(混まない)の時間であれば、鉄道料金は、安くなります。


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アシュモレアン博物館は、オックスフォード駅から徒歩10分程で着きます。






入場料は無料。

イギリスは、美術品は皆で共有しようという考えがあり、凄いです。



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アシュモレアン博物館に行く目的は、やはりヴァイオリンです。







展示コーナーには、ヴァイオリンの名器がズラリ....。



ちょうどよい明るさで、ニスの光沢感を間近で感じることができます。



中央に飾ってあるヴァイオリンは、ストラリヴァリウスの1716年製メシアです。


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メシアは、ストラリヴァリウスの遺族から、サラブエ伯爵が買取、その後ヴァイオリンハンターのルイージ・タリシオの手に渡ったようです。




ヴァイオリンハンターのルイージ・タリシオが、フランスの楽器屋に行ったとき、




「実はストラリヴァリの工房で出来たばかりのような、ストラリヴァリウスを持ってる。最高に美しいヴァイオリンだ。いつかみせるよ。」





と自慢していたと逸話があります。




しかし、待てど待てどタリシオは、そのヴァイオリンを持ってこない。



本当か分かりませんが、




「タリシオはあのヴァイオリン全然もってこないなぁ...。あぁ、救世主(メシア)のようだ! 」




と叫んだとか...。




結局、タリシオは死に、自宅に厳重に保管されていた場所で、このヴァイオリンが発見されたそうです。



このヴァイオリンの保存状態は、今でも、ストラリヴァリウスの工房で出来たばかりのような状態で、ヴァイオリンが輝いています。





メシアは、ヴァイオリン製作家ジュゼッペ・アントニオ・ロッカがメンテナンスを担当していたこともあるようで、ヴァイオリン製作者達に大きな影響を与えた楽器でもあるようです。




メシアは、演奏されることなく、永久にこの状態で保存されるヴァイオリンのため、音を聞くことができません。




録音されたものもないため、今生きている人で聴いた人はいないでは....。




ヴァイオリンは、弾くことで楽器が振動し、弾きこまれることで音に深みが出て来ます。





しかし、弾くとは消耗することかもしれません。弾く人間としては残念ですが、楽器も使うことで、寿命に近づくという考えでしょうか....。






結局、現在状態が最高として、高額で取引されているのは、長い間貴族やその遺族が保管し、弾かれていないというものも多い気がします。




いずれにせよ、メシアは演奏されないという楽器です。





きっと素晴らしい音も、保存されているはずですが。


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でも、僕思うんです。



夜中の博物館で、誰かメシアの誘惑に負けて、こっそり弾いた人はいないのかな....って。